大阪高等裁判所 平成元年(ラ)368号 決定 1989年9月29日
主文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
一 抗告人は、「原決定を取り消す。本件を大阪地方裁判所に差し戻す。」との裁判を求め、別紙のとおり抗告の理由を述べるが、その要旨は、抗告人は原決定添付別紙物件目録記載の物件について動産売買の先取特権を有し、右先取特権者として相手方(買主・債務者)に対し、先取特権実行のための差押えの承諾を求める権利を有する者であるが、この差押承諾請求権を被保全権利として相手方の占有する右物件につき執行官保管の仮処分を申請したところ、原決定は動産売買の先取特権者にはその主張のような差押承諾請求権は認められないとして右申請を却下したものであって、その点において原決定には法の解釈を誤った違法があるというにある。
二 そこで、抗告人主張の被保全権利の存否、すなわち、動産売買の先取特権者が債務者(買主)たる目的動産の占有者に対し、右先取特権実行のため当該動産の差押えの承諾を求める権利(以下「差押承諾請求権」という)を有するか否かについて判断する。
1 動産売買の先取特権は、動産の売買により発生する法定の担保物権であり、その代価及び利息について目的動産から優先弁済を受けることができることを内容とするものであって(民法三一一条六号、三二二条、三〇三条)、もとより、目的動産を直接占有、支配することができる権利ではなく、目的動産が第三者に譲渡され引き渡されたときは当該動産についての効力が消滅してしまうものである(いわゆる追及効の不存在。同法三三三条)。
右のように、動産売買の先取特権は、もともと実体法上限定された効力を認められた法定担保物権にすぎないものであって、その権利内容からみても、債務者(買主)に対する右差押承諾請求権が派生すべきことを首肯させるに足りる実体法上の根拠を見出すことはできない。
2 抗告人の所論は、帰するところ、民事執行法一九〇条の規定との関連で、右のような差押承諾請求権を認めないと実際上不都合であるからこれを認めるべきであるとするものというよりほかはないが、それが実際上不都合であるかどうかはともかくとして、法律上の論拠としては採用するに由ないものといわざるをえない。
三 そうすると、被保全権利についての疎明を欠くものであり、事案の性質上保証をもって疎明に代えることも相当ではないとして本件仮処分申請を却下した原決定は相当であり、本件抗告は理由がないのでこれを棄却し、抗告費用は抗告人に負担させることとして、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 藤原弘道 裁判官 川勝隆之 裁判官 中村隆次)